紫陽花とかたつむり

　紫陽花が色づいてきた。もうすぐ、梅雨である。私はたいがいの植物と同じく、涼しい梅雨は好きである。蒸し暑くなってくると、「はよ終わって」と思うようになるが。雨の中で紫陽花がかすんだようにうす青い光を放って揺れる。新緑の色が雨に溶け込んだように山々を、空を覆い尽くす。特に美しいのは、雨降りなのに雲が厚くなく、太陽の光が雲全体をまんべんなく明るくしていて、その光と地上の緑が溶け合い、空気そのものが黄緑色の光を放って鈍く輝いているとき。それから集中豪雨の雨音、叩き付けた雨粒がはじけて霧のように細かい粒子になって風に煽られる様子。雨の景色を見るのは、嫌いではない。外出したいとは思わないけれど。
　ところで、紫陽花といえばかたつむり、紫陽花の絵にはかたつむりを描き添えるもの、であったが、最近の紫陽花にはかたつむりがいない。この辺りだけだろうか。以前は雨が降ると必ず、コンクリートのブロック塀にかたつむりがわんさといたもので、子供の頃、近所の塀で何十匹ものかたつむりを取って帰って親にあきれられた。飼うと言って、またまたあきれられた。それはそうだろう、飼ったりせずとも庭中至る所にかたつむりがいたのだから。どうしても飼うと言いはって、古い水槽に入れて野菜をやって食べさせ、水槽の壁面を這わせて口はどこか、どうやって動くのかと、興味津々ながめたのを覚えている。このかたつむり君たちは逃走を図り、一週間経った頃には一匹もいなくなっていた。どうやって水槽から脱出したのかは分からない。親の手助けがあったのだろうか。
　かたつむりたちは、今はどこにもいない。どこへ消えたのだろう。我が子は、かたつむり取りの楽しさを知らない。