ミモザの記憶 [◇雑記帳]
3月8日は国際女性デーなるものなのだそうだ。こういう日があることもつい先日まで知らなかった。きっかけは、ミモザである。春の訪れとともに、ブログでもミモザの写真を見かけることが多くなった。ミモザを見ると必ず思い出すのが、ヴェネツィアで見た光景。もう二十年ほども前の話であるが。
フランスからイタリアに夜行列車で移動して、早朝ヴェネツィアに到着した。夜間移動の疲れを少し癒してから、朝の散策と朝食に出かけた町は、ミモザであふれていた。花束を持った男性、ひと枝手に持っているおじいちゃん、胸の前で大事そうに持っているショール姿のおばあちゃん、鞄に花束をつっこんでいる若い男性、おじいちゃんもおばあちゃんも、おばさんも若い男も、そして船頭さんたちも、みんなミモザを持っている。花屋さんも花屋さん用のゴンドラも、ミモザの独特の香りと黄色の光にあふれている。朝食を取ろうと入ったカフェで、店の人に聞いてみた。
「何でみんなミモザ?」
「今日は女性の日、男が女にミモザを贈る、奥さん〜、恋人〜、お母さん!」
「ヴェネツィアだけ?」
「ううん、イタリア中で!」
いい日に到着したものだと、その日は一日中ミモザを持った人たちの表情を眺めて過ごした。お陰で2泊の予定が3泊になったのであるが。
そのまま、ミモザは私の中で素敵な思い出になった。しかし、あのほんわりとした慣習の起源を調べてみよう、という気はついぞ起こったためしがなかった。多分ずいぶん昔から、イタリアの春の祭りとしてあったんだろうな、くらいにしか思っていなかった。
ここ数日ミモザを見るたびに、あの風習はいつ、どのようにして出来たものだったのだろう、と思うようになった。そこで調べてみると、そんなに古いものでもなければ、浮き浮きするようなエピソードでもなかった。むしろ暗く、怨念が固まっていそうなきっかけである。
ちょうど百年ほど前に、ニューヨークで百人を越す女性が焼き殺された、何とも痛ましい事件が発端となった、とか、帝政ロシアで参政権を求める女性たちがデモをした、その象徴としてミモザを用いた、とか。女性たちの悲鳴や怒声が聞こえてくるようなエピソードばかりである。これらが国際女性デーの起源だそうだ。そしてそれがあのイタリアの「女性の日」なのだという。
だが、あのイタリアの春の陽光の中では、ほんわりふわふわした、楽しそうで愛おしい情景であった。イタリアの人びとは、そういう歴史を知ってか知らずか、女性を大切にしつつ春の訪れを祝うような、楽しく心温まる花の祭りへと変化させたようである。
つらくてひどい局面を、いつの間にか幸福なエピソードに変えていくちから。ミモザにまつわる古い記憶を辿った先で、そんな風に思いめぐらすことになった。イタリア人の気質によるところも大きいのかもしれない。あのヴェネツィアの光景とミモザの花は、ただ単に楽しくて懐かしい記憶ではなくなり、ひとつ色合いが濃くなったようだ。
ちなみに私も、小さなミモザの一枝を民宿のおじいさんから戴いた。
ミモザの思い出話、素敵です!
イタリアの素敵な光景が浮かんで来るようでした。
by mutumin (2010-03-08 23:12)
mutuminさん、こんばんは。
まだまだミモザが(少なくとも私には)物珍しかった時でもありましたし、
この光景はよく覚えているのです。コメントありがとうございました。
by おじゃまま (2010-03-09 00:20)
お早うございます。
ミモザの花、大好きです。イタリアでは男性が女性に贈るお花なんですね〜
でも国際女性デーの起源となったお話は胸が痛みました・・・(-。-;)
by yakko (2010-03-09 09:57)
yakkoさん、こんにちは。
ミモザのふわっとした黄色の花は、心が弾むようですね。
調べ始めた時には、「古代ローマの云々が妻に贈り…」なんていう、
古くものどかな話を想像していたので、
まさか、こんな陰惨な出来事が発端になっているとは夢にも思いませんでした…。
コメントありがとうございました。
by おじゃまま (2010-03-09 10:08)
うちのマンションの1階に立派なミモザの木があるので、毎日、上からのぞきこんでいるんですが、数日前から色が変わってきたので、もう枯れるのかなあ、と思って、残念な気分ですよ。
家にもミモザ飾りたいなあ。
by MERRY (2010-03-09 12:55)
MERRYさん、こんにちは。
もうミモザがおしまいなんですか?
こちらは八部咲き〜満開です!幼稚園や公園に、むせるような香りが漂っています。
コメントありがとうございました。
by おじゃまま (2010-03-09 13:55)
こんにちは^^
お話を読んでいてイタリア人の陽気な姿を思い出していました。
歴史上ではいろんなことがありましたものね~ 魔女狩りだの赤狩りだの・・・
もうそういうことは繰り返されないでしょうが、人種差別なんて
今でも影に日向に・・・見え隠れしているし・・・あら、嫌な話になっちゃった。
ミモザは今年ブログでだけしかお目にかかってないわ~
by mimimomo (2010-03-09 14:57)
mimimomoさん、こんばんは。
イタリア人に限らず、ほんものの陽気さ、のんきさというのは、
生きるちからになるのではないだろうか…そんな風に思いました。
そうは言っても、二時間くらいは遅れる列車、というのは困りますけれども(笑)。
最近はイタリアの列車も時刻表通りに到着することがおおいそうですが。
コメントありがとうございました。
by おじゃまま (2010-03-09 16:30)
ミモザのお話ありがとう。先日行ったスペインで咲いてました。花の少ない時期なので目立ちましてね。カメラに収めましたよ~♪
by ayaaya (2010-03-10 16:04)
ayaayaさん、おかえりなさいませ〜。
ミモザの花、南欧によく似合いますね!
by おじゃまま (2010-03-10 16:34)